ユーザーフレンドリー全史を読んだ(1)

最近職場で輪読している「ユーザーフレンドリー全史」が最高に面白い。

デザイン思考、ユーザーエクスペリエンス……21世紀の世界においてモノや仕組みをつくる際に避けては通れないこうした概念は、どこからやってきたのか。また、スティーブ・ジョブズとアップル、ディズニー、フェイスブック、その他あらゆる先進的な試みを支えてきた無数のデザイナーたちは、何を考えて「あたらしい世界」を築いてきたのか。 その根幹となった「ユーザーフレンドリー」の概念を多角的に取り上げ、フィジカルなプロダクトから最新のデジタル事情まで現在の世界を決定づけるモノや思想について、その問題点も含めデザイナーのみならずビジネスパーソンや学生などあらゆる人のために平易に書かれた、世界で初と言っても過言ではない文化史的な書物がようやく登場。これまで「当たり前」と受け止めていたモノや仕組みが、180度変わって見える一冊です。

その通りで、「ユーザーフレンドリー」を取り巻く諸概念(人間工学・認知心理学等...)が 多くのエピソードとともに語られ、どんな過程を経て今のデザインが成り立っているのかを解説してくれる。

「なんか意図と違うデザインだな」という感想が「それはメンタルモデルとこういうふうにずれているから」 「適切なメタファーに落とし込めていないから」「フィードバックが適していないから」と より根本的なところで、解像度をあげて考えることができる様になった。
ドキュメンタリーを意識した構成となっているためかちょっと脱線しがちだが、 1部を読み終わったところで振り返るとユーザーフレンドリーの辿ってきた太い筋が見え、読み応えがある。


1.混乱させられるデザイン

スリーマイル島原発事故はわかりにくい制御室のデザインが原因だった。 これは普段の生活の中で「使いずらい!」とイライラすることと同じ問題。

使いやすい機械にあるもの =「パターン」「操作のしやすさ」「一貫性」

人間と機械の橋渡しとして重要な概念「フィードバック」「メンタルモデル」

  • フィードバック
    • 人が求める事に応じて、モノがどう振る舞うかを定める
    • 安心または怒り、満足感または不満といった気持ちを呼び起こすのは、フィードバックに他ならない
    • フィードバックの重要性が、神経科学と人工知能の発展にもつながった
  • メンタルモデル
    • モノがどのように動作するか、モノのパーツや機能がどのように組み合わされているか、に対する直感的な理解
    • UXデザインとは、人々がもともと持っているメンタルモデルに新しい製品を当てはめる作業
    • 未知のモノを操作するとき、フィードバックを通じて試行錯誤し、メンタルモデルを作ろうとする

2.インダストリアルデザインの起源

ヘンリー・ドレイファスをめぐるここ100年のデザインの概念のあゆみ。

大量生産を意識したデザインから、アメリカのでの家政学の発達とともに女性が消費者として影響力を持つようになり、効率的・使いやすいものへのニーズが高まる。 「広告の見栄えを良くして物を売る」→「商品そのものが良い物でないと売れない」という流れができ、インダストリアルデザイナーが誕生する。 また「デザインすることで社会をよくすることができる」という今では当たり前のような考えはこの頃から。

ドレイファスの「全てのデザインの出発点を人間にするべき」という言葉の示す「人間中心デザイン」の考え方が出てくる。


3.それは誰のエラーか

技術が急速に高度化した第二次大戦中、レーダーの信号が読み取れず燃料切れで墜落する戦闘機が続出。 これは操作パネルが誰にでも使えるようにできていない事によるエラーだった。 1970年代、「人間には限界がある・不完全さが人間を人間たらしめている」という認識が広まり、人間工学が発達する。

  • ヒューマンエンジニアリング(機械を正しく操作するには、その機械の操作に適した者を見つけることである)
  • エルゴノミクス(ものは誰にとっても簡単に使えるものでなければならない)

ドレイファスのデザイン事務所のシンボル、「ジョーとジョセフィン」は人間中心デザインを表している

この章までは「人間と物」を中心とした静的なユーザービリティの話を中心に展開される。


4.信頼されるモノとは

この章からは、「人間の入力を元に機械がどう振る舞うか・そしてそれがスムーズに行くには?」という議題にうつる。

アウディの『3+1』デザイン哲学。「メンタルモデル」「フィードバック」「ユーザビリティ」+機械と人間のやりとり(意思の疎通)。
ポライトネス(会話の参加者がお互いの自己決定・他者評価の欲求を侵さないために行なう言語的配慮のこと)を持った機械は、人間に信頼される。
例えば手綱を握って馬を操作する・馬のメタファーで、主導権が機械にあるのか人間にあるのかを伝える。


5.メタファーのはしご

人が新しいモノを理解できるかどうかは「既存の何かになぞらえる」というメタファーの設計にかかっている。 メタファーは「実世界を身体感覚で捉えたもの」。 ものの形や使い方をデザインすることで与える印象を調整する、コインを指先で挟む剃刀のデザインや、高級時計はあえて重くすることもその一つ。
またインターネットの概念を一発で伝えるのは難しいが、先進国の人は、インターネットの概念をいろいろなメタファーちょっとづつ理解して行った。 新しいものに慣れていけば(メンタルモデルが浸透していれば)もともとの形を模倣する必要がなくなってくる。 そしてメタファーが浸透してメンタルモデルが出来上がると、メタファーの形が変わっていく。
Smaltalkにはコンピュータを誰でも使えるようにする、メタファーが沢山含まれていた。


デザインの実習って色・形・形状・テクスチャ等要素を意図通りの印象を与えられるものに設定できるかどうかのところに結構時間を割いて その感覚を掴むためにスケッチし、見て、自分の中で分類して、とやっていたが...これってインターフェースをデザインするところまで地続きだったのだ。
1部5章まで読み終えたところ、実際デザインをするときはメタファーが適しているかが肝である気がした。 取り入れようとしているメタファーが果たしてユーザーに浸透しているのか、をしっかり考えることがめちゃくちゃ大事。

2部はこれから読む。楽しみ..!